2016年の扉が閉じたとき、私たちはVRについて何を学んだだろうか?際立ったPCや専用ハードウェアがリリースされたにもかかわらず、VRの現実は、誇大広告の割には控えめだった。2017年が始まろうとしている今、争いの場がハードウェアからオペレーティングシステムに移行している中にあって、業界はバランスを直し、勢いをつけなくてはならない。
VRハードウェアの立ち上がりは、これまでのところ緩慢で、付属コンテンツの業界も実験フェーズにとどまっている。どのような働きをして、消費者は何にお金を払うかを批判的に見極めている状態だ。昨年10月のPSVRのリリース以降、ゲームセクターは幸先の良いスタートを切った。ここでは、認知度が上がり、数多くの有料ゲームを市場に送り込んでいる。
しかし、VRを大衆の手に届けるのは、モバイル業界の肩にかかってくるだろう。PCや専用機(および付属ハードウェア)は価格が高いため、VRの採用はゲーミングに限られる。結果として、業界では、ハードウェアとコンテンツの両面で、高品質のモバイル体験を開発するために多額の投資がなされている。世界全体でみたPCと専用機向けヘッドセットの販売台数は、2016年末までに100万台を突破したとみられるが、モバイルヘッドセットに対する需要は400万台にもなると予想されている。
Google Daydreamのリリースは、新たなモバイルVRエコシステムとしての登場だった。これは、FacebookによるOculusの競合として相応しいものだ。Daydreamは、コンテンツ・キュレーション、品質、アプリケーション面で、前作Cardboardを顕著に凌ぐ。YouTubeなど自社コンテンツも他のプレミアムパートナーの一群に加わるほか、Jaunt、Netflix、NYタイムズ、CNNといった企業の参画も確認されている。
消費者の手元に届く際には、Motorola、HTC、Samsung、Huawei、LGといった強力なハンドセットサプライヤーの面々によるサポートをDaydreamは受けるだろう。このハンドセットの販売は2017年中に行われる予定だ。
モバイルVRエコシステムに対するGoogleのオープンアプローチは、現在SamsungのGear VRでしか利用できないFacebookのOculusのそれとは対照的だ。Googlesのスタンスは、モバイルVRユーザーの間で気軽で、より統一感のある体験を作り出している。それは、iOSとAndroidでみられるOSの争いにどこか似たシナリオとなっている。
Oculus のプラットフォームは、SamsungのGear VRでしかモバイルアクセスできないが、これは、質の高いモバイル体験を生み出すのに貢献した。しかし、長い目で見ると、このアプローチは制約が多く、Daydreamと競合していくには、他のHMD(頭部装着ディスプレイ)やハンドセットメーカーにも開かれたプラットフォームが必要になるだろう。
今後、ハンドセットサポートに対する要求が高まると、過去の再現となる。Oculusの戦略の中心は、電源をつけるのにハンドセット、PC、専用機を必要としないオールインワンのヘッドセット「Project Santa Cruz」のローンチにあるからだ。これは、VRコンテンツにアクセスするための専用機として機能し、通常の働きをするのにモバイルのハンドセットを必要としない。
GoogleとFacebookという2大巨頭による動きは、2017年からのVRゴールドラッシュの勢いをもたらすだろう。それによりこの業界は今年、揺籃期から幼年期に至り、幅広い採用と消費者に何度も使ってもらえる新規性をめざす。両社はともに、消費者間のコミュニケーション向上に注力しており、成功すれば容易に自社のVRエコシステムに転用できる広告を通してマネタイズしてきた。そしてもちろん、この業界にはAmazon、Appleというあまり知られていない企業がいる。両社が業界に参入するという噂は引き続き流れており、FacebookやGoogleの取り組みをディスラプト(破壊)する潜在能力を有している。様々なハードウェアやプラットフォームが進化し続ける中、持続するために大事なのはコンテンツのマネタイズだ。消費者の目から見て「ニーズ」のあるものはまだ作り出されていない。これまでのVRコンテンツは、主にスポンサー企業や広告による後押しを受けたものだった。VRが提供できる可能性を披露する点では良い機会だったが、消費者がそれに慣れてしまえば、財布の紐を開いてもらうのは難しいだろう。そして2017年、関係企業は何をしてくれるのだろうか? Daydreamは、Oculusのエコシステムをオープンにするカタリストになると予想されているが、VRの成長にとっての刺激となり、専用機やPCに代わって高品質で低コストのVRを提供してくれるだろう。ハンドセットのサポート、コンテンツの利用可能性が向上すれば、消費者の認知度が高まり、取り込みが広がっていくだろう。