音声アシスタントは、スマート・デバイス、パーソナル電化製品、スピーカーでは普及が進んでいるのに対し、車載分野にはほとんど関心が寄せられてこなかった。自動車へのプッシュ・ツー・トーク・ソリューションの搭載は1980年代から続いているが、一般的にはオンボード処理に基づき、コマンドの種類がかなり限られている。この状況が変わろうとしている。クラウド処理(ハイブリッドまたは完全なクラウド)のできる新世代のコネクテッド音声アシスタントは今や急速な普及への機が熟している。Futuresource Consultingが新しく発行した車両オーディオ関連レポートによると、このテクノロジーの搭載率は、昨年は30%にも達しなかったが、2023年までに新型乗用車の2/3近くが内蔵するという。
車載音声ソリューション:次世代対応完了
「車載部門は本質的にコネクテッド音声アシスタントに適した分野」とMike Fisher氏(Futuresource Consulting社アソシエート・ディレクター)はいう。「(このテクノロジーを使うと)より重要なタスクに注意が必要な環境で、シンプルなハンズ・フリー操作によって情報や車両機能にアクセスできる。それでも自動車の耐用年数が10年以上に及び、設計サイクルが2年であることから、自動車メーカー各社はこれまで最先端のCEイノベーションの搭載に消極的だった。Bluetoothを除くと車内接続性は従来とぼしく、実用的なユース・ケースは限られていた。この状況が一変しようとしている。その理由は、消費者の間で音声アシスタントへの訴求が大きく広まったうえ、コネクテッドカーの台頭や新しいテクノロジーのイノベーションを受けて、さまざまな機会が生じたためだ」
コネクテッド音声アシスタントは今後、コックピット内で主要な役割を担い、車両サービス商品、位置情報サービス、Eコマースといった新しい付加価値の機会につながる模様である。
次世代アシスタント:インテリジェントな相づちの開発
音声アシスタントは、簡単なコマンドやコントロールのメカニズムから脱却し、高度な会話機能やインテリジェントな予測機能のプラットフォームに発展し始めている。最終的に音声操作製品は、自然な会話機能を獲得し、サービス・プロバイダーにとっては使用時の行動データを収集する以外にも、さまざまな新規のマネタイズ機会が生まれるであろう。認定サービス・センターでの年次メンテナンスに関するプロアクティブな予約案内から、スマート駐車場アプリによる都市に入る時点での適切な駐車スポットの場所検索まで、潜在的なユースケースは多岐にわたる。
半導体の技術的イノベーションによってチップでの処理能力が大幅な向上するにつれてハイブリッド・ソリューション(チップでのローカル処理とクラウドを併用)が目立つようになると、高度な会話機能が導入されるようになる。こうしたハイブリッド・ソリューションでは、オンボード処理のセキュリティ、スピード、安定性、ほぼ無限の可能性を持つクラウド・ソリューションの用途が、接続性のバックボーンとなりそうな低レイテンシー、高パフォーマンスの5Gモバイルネットワークと結び付くことになる。
完全なOEMコントロールかCE提携か?
「接続性の機会が成長し始めたことから、自動車メーカーはNuanceやSoundHoundといったホワイト・ラベルのプロバイダーと共に独自のソリューションを開発してきた」とFisher氏はいう。「この方法でメーカーはずっと顧客のデータを完全に掌握し、囲い込み、顧客と直接の関係を構築することができる。ところがいくつもの戦線が張られつつあり、Amazon、百度、Googleなどの主要音声プラットフォームは車載部門にターゲットを設定し、いくらかの足掛かりを構築している」
車内のデジタル・エクスペリエンスは、新しいサービス収益の機会を提供するとともに、ブランド・エクスペリエンスの一部として次第に重要性が高まっている。自動車メーカーは完全掌握を続けるのだろうか、それとも顧客がそれぞれ気に入ったプラットフォームをシームレスに使用できるようにするのだろうか?後の方の選択肢では、必然的に社内エクスペリエンスの相当部分と、同時に生成される貴重なデータが代償となる。短期~中期的には、複数のアシスタントと共存することになる可能性が高い。自動車メーカーは、燃料レベルのチェック、空調のオン/オフ操作、パフォーマンス問題のモニタリングといった自動車の中核機能のコントロールを維持したい考えだ。この考えを叶えるには、システムが自動車の中央Controll Area Network(CANバス)と統合する必要がある。結果として、この方針によって深いレベルでのシステム統合がなされ、オンボードの車両管理システムの維持するセキュアなドメインにすべて収められた詳細なユーザー・データにアクセスする機会が得られる。するとエンターテインメント、ニュース、地元情報、交通情報など、自動車に特化していないコマンドが、すでに確立された消費者重視のアシスタントに渡せるようになり、クラウドで処理される。
自動車メーカーにとっては、商業的見地から複数の音声アシスタントが妥当であるが、注意深くユーザー・エクスペリエンスを検討する必要があり、混乱を排除する必要がある。現在の主なオプションに、複数のウェイク・ワードや認知アービトレーションの2つがある。ウェイク・ワードを使用した音声制御製品では、車内の人間が呼び出すまで低電力モードが維持される。この方法はやや違和感を感じることのある対話方法であり、特に複数のウェイク・ワードを使ってシステムを操作するときはその感覚が強まる。認知アービトレーションでは、車載用OEMブランド製アシスタントで音声コマンドが評価され、最も関連性の高い処理用アシスタントが提示される。
自動車OEMがエコシステム最大のコントロールを得られるため、「認知アービトレーションは明らかに、自動車OEMにとって魅力的な提案である」とFisher氏はいう。だがユーザーの好きな音声アシスタント・プラットフォームに比べて、そのようなシステムのメリットを消費者に納得させることはできるのだろうか?初期のCarPlayとAndroid
Autoは、当初、多くのメーカーが統合に消極的だったが、今ではほぼどこにでも採用されていることから、歴史上の教訓となった。最後までCarPlayとAndroid Autoを採用していなかった巨大自動車メーカーの1つ、トヨタ自動車も、ついに2020年の製品グループのいくつかにAndroid Autoを追加すると発表した。
アフターマーケットの機会
世界中で約10億台の乗用車が使われているなか、CEベンダーにとってはアフターマーケットもうまみの大きい機会である。新しい車載ソリューションの急速な発展に押され、アフターマーケットのヘッド・ユニット売上は、世界中で下落してきているが、音声機能に電話接続を使うマルチメディア・ヘッド・ユニットが生命線となり、ヘッド・ユニットのASPは向上している。Android AutoとCarPlayはアフターマーケットのシェアをじわじわと奪っており、特にGoogle Assistantの言語サポートが改善され、対応国が増えるにつれて、今後も成長が見込まれている。Amazon、Google(と提携業者)も、シンプルな音声機能を比較的低コストで提供するよう設計したアクセサリー方式の製品を発売した。
自動車のコネクテッド対応が進むにつれ、変化の激しいコックピットと車内ユーザー・エクスペリエンスの支配をめぐる戦いが始まる。Futuresourceは次世代音声アシスタントが競争環境の変化に影響を及ぼすにあたって主な役割を果たすと予測している。マルチアシスタント環境は、消費者にとって満足の行くエクスペリエンスとなるだろうか、それとも好きな音声アシスタントを使用できる自動車メーカーを優先するようになるだろうか?消費者はデータ保護、プライバシー、過剰なテクノロジー展開から、音声アシスタントの潜在的ユース・ケースが制限されることになるだろうか?