景気後退の余波に対する免疫は無かった教育部門であるが、他のエレクトロニクス部門で見られる下方傾向に反した動きを示している。この主たる要因の一つとして挙げられるのが政府主導による投資で、経済的及び政治的理由から、教室へのICT技術導入が推進されている。多くの国では、IT技術者の育成を教育の一環として捉えている。また、教育への投資が有権者獲得に繋がるという政治的側面も考えられる。このような理由から、緊縮財政下にあっても教育分野への投資は継続すると思われる。
現在トルコで展開中の数十億ドル規模の「FAITHプロジェクト」が好事例として挙げられる。トルコ政府は、学習のあり方に革命をもたらすことに加え、製造業者への投資という狙いも持っている。プロジェクトの一環として、65″インタラクティブ ディスプレイを各クラス(約60万~ 90万クラス)に設置。これに加え、生徒各人へのタブレットPC (1,200万台)支給を計画している。タブレット/ノートブックPCを使っての「1対1」学習に対する関心は世界的な広がりを見せている。「自習」の概念が広まりを見せるなか、幼稚園から高校までの13年間の教育(k-12)用PC (ノートブック・ネットブック・タブレット)世界出荷台数は、2012年には1560万台に達する見込みである。特に米国では、iPadの成長が著しい。「1対1」での学習スタイルの導入により、数百万ドル規模での教育関連著書のデジタル化が進むと思われる。この動きを考慮し、多くの国では学校のインフラ整備(ブロードバンド接続/デジタルコンテンツ戦略)に着目している。
教育予算の限界についてはこれまでも指摘されており、組織的にも財政的にもトルコのような取り組みを行えない国は多い。しかしながら、政府も学校も、より独創的に技術導入の為の資金調達を推し進めている。貸与もしくは一部有償といったかたちでのデバイス所有を保護者に委ねるケースが多く見られる。「1対1」の学習スタイルが世界的な広がりを見せていることで、政府と民間企業とのビジネス提携の動きも伺える。
「1対1」学習の拡大から、特に恩恵を受けているのはテレコミュニケーション企業である。ポルトガルでは、政府とテレコミュ二ケーション企業連携で全国レベルのone-to-oneプログラムが展開された。テレコミュ二ケーション企業の一部投資から始まったこのプロジェクトは、保護者が3年の割引ブロードバンド契約を結ぶ代わりに、全ての義務教育就学児(180万人)にネットブックが贈与された。学校や政府は、「1対1」学習を展開する上で、実践可能な予算や戦略を模索している。貸与での利用も含め、各人の利益つながる商談はより一般化すると思われる。
教育のデジタル化が継続的に進むことで、サービス提供者には興味深い新たな収益源が生まれる。数十億ドル規模の個人レッスンのビジネス(講義のストリーミング、グループ/個人授業など)に乗り出している革新的な企業もある。このような付随的収益が、今後の市場展開に貢献してゆくことになるであろう。
教育におけるITハードウェア市場は、国ごとの違いもさることながら、国内の地方や地域による違いも大きい。資金投入が重要な鍵を握っていることは言うまでもないが、教育分野においても市場に影響を及ぼす検討事項がいくつか考えられる。教育ITハードウェアの可能性には目を見張るものがあるが、長期的な成長の鍵を握る製品及びビジネス形態を見極めることが企業の今後の課題と言えよう。
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